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広島地方裁判所尾道支部 昭和20年(ワ)10号 判決

原告 御調川大田中井堰水利組合

被告 御調川大田上井堰水利組合 外六名

一、主  文

原告と被告御調川大田上井堰水利組合との間に原告が御調郡河内村を貫流する戸田川支流御調川の流水を大田中井堰に依り右河内村内に存する別紙第一表記載の所有者の水田に灌漑する水利権を有する事を確認する。

被告御調川大田上井堰水利組合は右大田中井堰の内側(大田上井堰の下流位置)に設けた、長さ四間三尺幅及び深さ各五尺の堀(水溜施設)を收去せねばならない。

原告の被告定一、謙一、憤一、篤次、正一、和一に対する請求は之を棄却する。

訴訟費用中原告と被告御調川大田上井堰水利組合間に生じた部分は同被告の負担としその余は原告の負担とする。

本判決は第二項に限り原告に於て金千圓の担保を供するときは仮に執行することを得る。

被告御調川大田上井堰組合に於て金千圓の担保を供するときは右仮執行を免れることを得る。

二、事  実

原告訴訟代理人は御調郡河内村を貫流する芦田川支流御調川流水を該河川に存する大田中井堰に依り原告御調川大田中井堰水利組合(以下單に原告中井堰組合と称する)が右河内村内に存する別紙第一表<省略>記載の所有者の水田に灌漑する、水利権を有することを確認する、被告御調川大田上井堰水利組合(以下單に上井堰水利組合と称する)及びその他の被告等は右大田中井堰の内側(大田上井堰の下流位置)に設けた長さ四間三尺、幅及び深さ各五尺の堀(水溜施設)を收去せねはならない、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並確認請求以外の部分に付担保を條件とする仮執行の宣言を求めその請求の原因として御調川河内村を貫流する芦田川の支流御調川(河川法適用の河川)に於ては古來所々一定の個所に流水を堰止める井堰を構築し井堰毎に井堰掛りの水田が存在し一定地域の水田所有者で永続的性質を有する水利組合を組織して之が掛り水田に用水路を設けて灌漑しその井堰及び用水路の管理維持に必要な費用の徴收、支拂の事務を執る爲各井堰毎に代表者を定め河川流水の占用工作物の管理を爲して來た慣習があるところ右慣習に依り大田中井堰及び大田上井堰が設けられ大田中井堰は河内村大字丸河南右岸丸河南下一徳二十二番地先より左岸徳永実寺十五番地の二地先達する面積六十二坪八合の川底数を有しその井堰掛りの別紙第二表<省略>記載の水田所有者に於て原告中井堰利組合を組織し又大田上井堰は中井堰の上流河内村大字丸河南の右岸丸河南下一徳十番地の一、上一徳十一番地の一地先から左岸徳永石丸十九番地同二十番地の一地先に達する面積九十坪五合の川底数を有しその井堰掛りの別紙第一表記載の水田所有者に於て被告上井堰水利組合を組織し何れもその費用の徴收、支拂、井堰、水路の修理、保管等には総代を選任し一任してるものであつて民事訴訟法第四十六條所定の法人権を有しないがその名に於て訴へ又訴へられる社團に該当するものである。而して右中井堰は常設の井堰基盤の工作物が築造されてあつて必要に應じてその上に二尺八寸の堰を施し流水を止めるもの、又右上井堰も常設の井堰基盤の工作物があり必要に應じて高さ約三尺の堰を施し流水を止め夫々各掛水田に通ずる水路を設け此の水路を通じて御調川の流水を各掛水田に引用し、灌漑して來たものであるが右大田中井堰は右大田上井堰の直ぐ下流百三十七間の個所に存し大田中井堰を堰き上げるときはその内側滞水は大田上井堰の堰根石迄滞溜する関係にあるに拘らず被告上井堰水利組合及びその餘の被告等は当時の河内村を訴外後藤多市の指図に基き相謀つて昭和十九年八月頃右中井堰の内側流水滞溜地域である上井堰の根石から約一間位下流の個所に長さ四間三尺幅及び深さ各五尺の堀を堀鑿して同堀から動力ポンプを使用し、右中井堰内堀に滞溜の水を汲揚げて上井堰掛りの水田に灌漑し又昭和二十二年度に於ても右堀から前同様揚水して上井堰の掛り水田に引用灌漑し以て原告中井堰水利組合が前示水利権を有することを爭ひ且之を侵害するものであるから原告は被告等に対し原告中井堰水利組合が右水利権を有することの確認並右堀の工事施設の收去を求むる爲本訴に及ぶと述べ被告等の抗辯に対し上井堰は古來通門から対岸に向ひ上流斜に向つて一線に設けられた通称上り堰と称する型のものであつて三十年前には抗木を打込み土俵を盛つて流水を堰止め、通門から引水し餘水は井堰を超へて落下し中井堰の内側溜水地域内に注ぎ原告中井堰水利組合に於てはその落下水を堰止めて中井堰の溜水として引用してゐたが右上井堰の堰根の坑が洗ひ流され井堰崩壊が屡々あつたので三十年前從來の場所に上り堰型の石作り井堰とし石疊の堰根を構築したものでその井堰の下流外部は原告中井堰水利組合の水利権の溜水地域として原告中井堰水利組合に於て使用してゐたものである。而して御調川に於ては多数の井堰があり、而も直角型と上り堰型の二種類があり且下流の井堰と近接するものと然らざるものとの別があつて上井堰掛り水田所有者に於ては昭和十九年頃前記訴外、後藤多市の指図に依り井堰の上の手一部を直線型に改めたが井堰の権利の範囲は井堰限りのものであつて、その下流迄水利権の範囲を主張する慣習は存じない。その他被告等の主張事実は爭ふ。尚被告等の自白の取消には異議があると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は本案前の答弁として原告中井堰水利組合及び被告上井堰水利組合が法人でなくして代表者又は管理者の定めがある社團であつて訴訟当事者としての通権を有することは爭ふ。原告主張の上井堰の掛り水田は約六町五反歩でその用水権者は別紙第一表の二十四名、中井堰の掛り水田は約十町五反歩でその用水権者は別紙第二表の四十二名であるところ代表者又は管理者の定めはない。尤も上井堰に於ては井手番又は水番と称する用水灌漑時に送水の世話をするものはあるが、井堰又は用水権者を代表するものではなく且組合の財産もないから社團又は財團と言ふことは出來ない。原告主張の水利権は用水権者たる井堰掛りの水田所有者全員に不可分明に属するから該水利権の存否又は内容を確定するには用水権者全員に於てのみ訴へ又は訴へられるものである。然るに原告の本訴は原告中井堰水利組合及び被告上井堰水利組合と訴訟の当事者とするものであるばかりでなく被告大田上井堰水利組合以外の被告等の関係に於ては用水権者の一部を被告とするものであるから不適法と言はなければならない。尤も被告等は曩に原告中井堰水利組合及び被告上井堰水利組合が法人ではなくして代表者の定めのある社團であることを認める旨陳述したが、該陳述は事実に合せず且被告等の錯誤に基く自白であるから之を取消すと述べ、本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判並被告等の敗訴の場合担保を條件とする仮執行免除の宣言を求め答弁として原告主張の事実中御調郡河内村内を慣流する芦田川支流御調川に於ては古來所々一定の個所に原告主張の如き井堰を構築しその井堰毎に各掛り水田が存在しその一定地域の水田所有者に於て井堰で堰止めた流水を灌漑用水として引用する慣習のあること原告主張の中井堰及び上井堰共該慣習に依つて構築せられた井堰でその各掛り水田所有者に於て灌漑用水を引用して來たこと、その掛り水田所有者は現在中井堰にあつては別紙第二表の四十二名上井堰にあつては別紙第一表の二十四名であること上井堰掛り水田所有者に於ては昭和十九年八月頃上井堰の根石約一間位下流の個所に長さ四間三尺幅及び深さ各五尺の堀を堀鑿して同堀から動力ポンプを使用して揚水し上井堰掛りの水田に灌漑用水として引用したことは認めるがその餘の事実は否認する。右堀からの揚水は上井堰掛りの水田所有者の水利権の範囲内の地下水を旱魃時に於て右堀内に誘引して揚水利用するものであるから右堀からの揚水は上水堰掛り水田所有者の水利権の範囲に属するものである。仮に右堀からの揚水が中井堰の地域内に滞溜する水を引用することになるとするも御調川流域に於ては井堰の通門(取入口)より対岸に向ひ直角に引いた直線か下位井堰掛りの水田所有者の水利権の境界であつてその直線より上位は当該井堰掛り水田所有者の水利権の範囲に在るとの慣習があり上井堰掛り水田所有者の堀鑿した石堀は該慣習に依り上井堰の通門から対岸に向ひ直角に引いた直線に依る同井堰掛り水田所有者の水利権に属する地域内に堀鑿されたものであるから右堀からの揚水は毫も中井堰掛り水田所有者の水利権を侵害するものではない。仮に右慣習がないとするも御調川流域に於ては旱魃時に当該井堰掛り水田所有者はその井堰附近の下位に堀を穿ち、その堀に地下水を滞溜せしめ動力に依つて揚水し該井堰掛りの水田に引水利用する慣習があり、大田上井堰掛り水田所有者の堀鑿した右堀は該慣習に依るものであるから該堀の堀鑿及び同堀からの揚水は固より適法の行爲である以上の次第であるから原告の本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

按ずるに被告等は御調郡河内村内を貫流する芦田川の支流御調川に於て古來井堰を作つて流水を堰止め各井堰毎に井堰掛りの水田があつて一定地域の水田所有者は永続的性質の水利組合を組織し、且之が掛り水田に灌漑する爲用水路を設けその井堰及び水路の管理及び維持に必要な費用の徴收支拂等の事業を執行する爲各井堰毎に代表者を定め河川流水の占用、工作物の管理として來た慣習があつて原告中井堰水利組合及び被告上井堰水利組合共該慣習に依つて組織せられた水利組合であることを一旦認め乍ら該自白は事実に合せず且被告等の錯誤に基くものであるから之を取消す旨主張するが証人内海憲夫の証言、被告大田上井堰水利組合代表者松田権一の本人訊問その他被告等提出援用の証拠に依つては未だ被告等の右自白が事実に合せず且錯誤に基くものであることを認むるに足らないから右自白を取消す旨の被告間の主張は採用しない。而して成立に爭のない甲第一、三号証第三者の作成に係り成立を認むべき甲第四号証の一、二原告中井水堰組合代表者古川逸治の本人訊問(二回)の結果並弁論の全趣旨を綜合すれば御調郡河内村内を貫流する芦田川の支流御調川に於ては古來所々一定の個所に流水を堰止める井堰を構築し井堰毎に井堰掛りの水田があつてその一定の地域の水田所有者で永続的性質を有する水利組合を組織し、且之が掛り水田に引用灌漑する爲用水路を設け、その井堰及び水路の管理維持に必要な費用の徴收、支拂等の事務を執行する爲各井堰毎にその代表者を定め河川流水の占用工作物の管理を爲して來た慣習があり、原告中井堰水利組合及び被告上井堰水利組合共該慣習に依り右各井堰掛りの水田所有者を以て組織された水利組合であつてその各井堰及び水路の管理維持に必要な費用の徴收、支拂等の事務を執行する爲代表者を定めてゐて法人格を有しない社團であり、且代表者の定めあるものであることを認め得べく從つて民事訴訟法第四十六條の規定に依り訴訟当事者としての適格を有するものに該当するものと言ふべく此の点に関し各井堰の掛り水田所有者全員を訴訟当事者としなければならない旨の被告等の主張は採用しない。次に前認定の事実に檢証(一、二回)の結果鑑定人後藤源一の鑑定の結果並弁論の全趣旨に依れば大田中井堰及び大田上井堰は何れも御調川の御調郡河内村大田地区内に構築してある井堰で各井堰掛りの水田所有者は前記慣習に依り、御調川の流水を堰止て各その井堰掛りの水田に灌漑用水として引用する水利権を有すること右各井堰は常設の石作りの井堰基盤が構築してあり、必要に應じて一、三尺の堰を作つて流水を堰止めるものであつて中井堰は上井堰の直ぐ下流に位置し、上井堰の餘水を堰止めてその掛り水田の灌漑に引用しているものであること、右両井堰共通門から上流に向つて斜に構築してある所謂上り堰であること並大田中井堰掛りの水田所有者は別紙第二表記載の者であり上井堰掛りの水田所有者は別紙第一表記載の者であることを認め得べく被告上井堰水利組合が昭和十九年八月頃大田上井堰の根石約一間位の下流の個所に長さ四間三尺、幅及深さ各五尺の堀を堀鑿し同堀から動力ポンプで揚水し上井堰掛りの水田に灌漑用水として引用したことは被告等の認めるところである。原告は被告大田上井堰水利組合が右堀を堀鑿し該堀から揚水してその掛り水田の灌漑に引用するは原告中井堰水利組合の水利権を侵害するものであると主張し被告等は被告上井堰水利組合の水利権の範囲内に属する旨抗争するから審按するに証人眞田太鳬、藤井兵治、鍋田寛吾、浅田萬一の各証言原告大田中井堰水利組合代表者古川逸治の本人訊問(一回)の結果、檢証(一、二回)の結果並鑑定人後藤源一の鑑定の結果を彼是綜合すれば被告上井堰水利組合及び原告中井堰水利組合の各水利権は各井堰限りのものであつて上井堰の下流地域(但し大田中井堰迄の部分)は原告中井堰水利組合の水利権の範囲に属し從つて被告上井堰水利組合に於て堀鑿した前記堀は原告中井堰水利組合の水利権の範囲内に在つて該堀から揚水することは原告中井堰水利組合の水利権を侵害するものであることを認め得べく被告等は被告上井堰水利組合の水利権は右上井堰の樋門から対岸に直角する直線迄の範囲である旨主張するが、証人長田伍一、向谷繁松の各証言中此の点に関する部分は前掲証拠に照して措悟し難くその他被告等提出援用の証拠に依つては前記認定を覆へして被告等の右主張事実を認むるに足らない。被告等は御調川流域に於ては井堰の樋門から対岸に直角する直線が下位井堰掛り水田所有者の水利権との境界であり、その直線より上位は当該井堰掛り水田所有者の水利権の範囲に属することの慣習があつて前記堀は該慣習に依り右境界線内に堀鑿したものである旨主張し右堀が上井堰の通門から対岸に直角する直線より上位に存することは檢証(一、二回)の結果に依り明であるが証人長田伍一、向谷繁松、古木仁一、谷川一三の各証言中被告等の右主張に副ふ部分は容易に信を措き難くその他被告等の立証に依つては未だ被告等の右主張事実を認め難いから被告等の該主張は採用しない。尤も証人藤井兵治、小川憲三、堀川小市、柴川儻の各証言に依れば御調川に構築された井堰に依つては当該井堰の下流から揚水して、該井堰の掛り水田に灌漑するものがあり、原告中井堰水利組合に於ても一、二回中井堰下流から揚水して中井堰の掛り水田に灌漑したことのあることを認められるが更に右各証言に依れば井堰下流から揚水する場合は下流井堰の水利組合の承諾を得てゐるものであること、原告中井堰水利組合に於ても下流井堰水利組合の承諾を得て中井堰下流から揚水したものであることを窺知し得るから或井堰に於てその下流から揚水した事実の存する一事を以て直に被告等主張の前記慣習の存する証左と爲し難い。更に被告等は御調川流域に於ては旱魃時に当該井堰掛り水田所有者はその井堰附近の下流に堀を窟ちその堀に地下水を滞溜しめて動力に依り汲み上げ該井堰掛りの水田に引水利用し得る慣習があり、被告上井堰水利組合の堀鑿した堀も右慣習に依り堀鑿したものであるから適法の行爲である旨主張するが被告等提出援用の証拠に依つても右慣習の存在を認むろに足らないから被告等の右主張も理由がない。尚被告等は水利権は井堰限りとする慣習がありとするも河川取締規則に依れば今後井堰改築については堤防の護岸保持上直線型井堰でなければ許可されないから之に反する慣習は公の秩序に反し無效であると主張するが、成立に爭のない乙第一号証鑑定人後藤源一の鑑定の結果に依れば井堰の新築については昭和十四年七月以降井堰の新築改築に際しては河川に直角に構築することを要することゝなつてゐるが既設の井堰について之を直角型に改築することを要するものでなく既設の井堰については從前の通り之を認められてゐることを認められるから被告等の右主張も採用に値しない。然らば原告中井堰水利組合がその有する前掲水利権につき被告上井堰水利組合に対し之が確認を求め前示堀の收去を求むる請求は正当として認容すべきものとする。原告は更に被告高岡定一、高岡謙一、内海憤一、松本篤次、長院正一、長田和一、に対して右水利権の確認並前示堀の收去を訴求するか同被告等は上井堰掛り水田の所有者であつて被告上井堰水利組合の組合員の一部であること前段認定に徴し明であつて被告上井堰水利組合との関係に於て同組合に対し原告中井堰水利組合の前掲水利権の確認並前示掘の收去の請求を認容する以上被告上井堰水利組合の組合員たる被告高岡定一、外五名の個人に対する原告の訴求は権利保護の必要のないのに帰着するものと言ふべし。仍て原告の本訴請求は被告上井堰水利組合に対する部分を正当と認めその餘の被告等に対する請求は失当として棄却すべく民事訴訟法第八十九條第百九十六條に依り主文の如く判決する。

(裁判官 河相格治)

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